カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇「百五〇年の孤独」
2017年12月5日 – 7:04 PM


百五〇年の孤独
本展キュレーター 黒瀬陽平

 

かつて、ここは、「復興の失敗」を経験した。

現在の福島県いわき市の南東部、太平洋側沿岸に広がる平野一帯。
2011年よりずっと昔のこと。そこは、かつて「泉藩」と呼ばれていた。

今からおよそ150年前、明治政府の最初にして最大の宗教政策、「神仏分離令」が出された。
明治政府は、国家公認の宗教を仏教から神道へと変えようとし、その準備としてまず、神と仏の信仰を切り離すよう命じた。仏教伝来から1000年以上続いていた神仏習合は、日本の近代化のとば口で、真っ向から否定された。

神と仏を同一視してはいけない。神と仏は区別せねばならない。神仏分離令は、ひとまずはそのように命じる政策だった。しかし、実際には、全国各地で激しい寺院の打ち壊しが起こった。寺や仏像は燃やされ、墓石は壊され、打ち捨てられた。仏教に対するイコノクラスム、つまり「廃仏毀釈」である。

明治政府は、神と仏を分けなさい、と命じただけ。なのに、なぜ?
江戸時代の僧侶たちがすっかり堕落していたから? 儒学や国学が仏教を敵視していたから? 寺院が持っていたたくさんの領地や財産が欲しかったから? ……さまざまな理由が考えられるけれど、ひとつに絞ることはできない。特定の誰かに責任があるわけでもない。近代化がもたらしたアイデンティティークライシスと、それにともなう集団ヒステリーとしか、言いようがない。

泉藩には、およそ60の寺院があった。そして、廃仏毀釈により、すべての寺院が無くなった。
60という数は、決して多くはない。特に廃仏毀釈が激しかった鹿児島藩では1000ヵ寺以上、土佐藩では400ヵ寺以上が廃寺になった。
しかし、泉では、その後の「復興」が進まなかった。現在でも、旧泉藩のエリアにはたった2つしか寺院が存在しない。つまり、泉は廃仏毀釈からの復興に「失敗」したのである。

仏教が消滅する。それは、死者と生者の繋がりが断たれる、ということを意味している。仏教は長い間、この国の「死者」と「死後」をケアしてきた。なぜ葬式をするのか。なぜ経をあげるのか。なぜ墓があるのか。すべては生者が、「死者」と「死後」と関わり続けるための方法である。

仏教が滅んだあと、泉では、神道がそのかわりを務めようとしてきた。しかし神道はこれまで、人間の死や死後に対して、ほとんど関心を払ってこなかった。そのための世界観も、儀礼も、モニュメントも十分に持っていない。神道は、身近な死者に対して、うまく語りかけることができないのである。

泉の「復興の失敗」。生者と死者は分断され、150年の孤独を生きている。
そのような過去が、現在の私たちと何の関係があるというのか。私たちにとって直近の、あの震災からの復興を差し置いて、150年前の宗教問題を持ち出すことに、違和感を覚える人もいるかもしれない。ましてや、それが現代美術と何の関係があるのか、と。

ぼくたちは一年間、泉の街を歩いてみた。かつて寺院だった場所を全てめぐり、その街並みや風景を見た。
わかったことは、かつての「復興の失敗」は、現在の泉の街並みや風景にも、確かに影を落としている、ということだ。生者と死者の関係が変われば、街も変わる。150年の孤独のなかで、ゆっくりと変わっていく。

そして、その街並みや風景は、今まさに被災地で進みつつある「復興計画」を、そこで新しく生まれている街並みや風景を、想起させずにおかない。巨大な防波堤、かさ上げされた防災緑地、整然と立ち並ぶ復興住宅。それらの風景が持つ、ある種の違和感と、泉の街並みに残るかつての「復興の失敗」の痕跡は、どこか似たものに見える。

かつての「復興の失敗」が、150年の孤独が、現在の「復興」の風景にオーバーラップする。
おそらくこの街には、「復興」をめぐる過去と現在と未来、すべてが投影されている。
ぼくたちは、かつての「復興の失敗」をたどっているうちに、いつの間にか、現在の「復興」に足を踏み入れていた。
現在の「復興」はどこへ向かうのだろう。ぼくたちは、かつての「復興の失敗」とは違う未来に進むことができるだろうか。

今回で3回目をむかえる、いわきでの「市街劇」は、泉を歩く。
「復興」をめぐる過去、現在、未来を歩く。
ぼくたちは、そのための地図を用意した。


さあ、歩こう。
近代の廃墟を通り過ぎ、現在の「復興」を見ながら、その先に。

 

入り口

 

【カオス*ラウンジ新芸術祭について】

カオス*ラウンジ新芸術祭」は、アーティストグループ「カオス*ラウンジ」(合同会社カオスラ)が主催するリサーチ&アートプロジェクトです。

カオス*ラウンジは2014年から、福島県いわき市の各地を継続的に訪れ、美術史的、民俗学的、社会学的なリサーチを重ね、その成果として2015年から1年に1回、いわき市内で「展覧会」を開催してきました。

第1回目である『カオス*ラウンジ新芸術祭2015 市街劇「怒りの日」』は、 1970年代に寺山修司が考案した「市街劇」をオマージュし、福島県いわき市平地区の複数会場をツアー形式で巡回させる、新しい形の芸術祭として好評を博しました。第2回目の『カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「地獄の門」』は、「怒りの日」の続編として市街劇形式を踏襲しながらも、新しいテーマと新しいアーティストたちを加え、同じく平地区で開催しました。あわせて小名浜地区でも『市街劇「小名浜竜宮」』と題した展覧会を同時開催しました。

 

カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇「百五〇年の孤独」について】

今年で3回目となる新芸術祭は、いわき市南西部の泉地区で開催します。

旧泉藩は、幕末~明治期に全国的に起きた「廃仏毀釈」運動によって、藩内のすべての寺院が打ち壊されるほど、廃仏毀釈が激しかった地域でした。廃仏毀釈による打ち壊しから復興した寺院は2つしかなく、廃仏毀釈の爪痕は、現在も泉地区の至る所に残っています。言ってみれば、泉地区は幕末~明治期の廃仏毀釈において、「復興の失敗」を経験していたのであり、それは現在まさに進行中の「復興」の行く末を考えるための、貴重な先行事例になるのではないでしょうか。

しかし、旧泉藩の廃仏毀釈の実態やその後については、ほとんど文献や資料が残っておらず、研究もわずかしかありません。カオス*ラウンジは2016年から、泉地区の廃仏毀釈についてリサーチを重ねてきました。 旧泉藩内の廃寺跡を訪れ、関連資料を調査し、未だにあまり明らかになっていない事実の発見や、新資料の発掘なども行いました。それらの成果を踏まえた上で、「復興の失敗」をテーマとした市街劇形式の展覧会を開催します。

カオス*ラウンジによる市街劇形式の展覧会の試みは、2011年11月に開催した『カオス*イグザイル』(フェスティバル・トーキョー2011主催作品)からはじまっています。被災地での市街劇は「怒りの日」(2015年)からであり、今回の市街劇「百五〇年の孤独」は、市街劇形式の展覧会の試みとして、そして震災後のカオス*ラウンジの取り組みとして、現時点での集大成になります。

震災後を生きる私たちにとって、復興や慰霊、鎮魂とは何なのか。現代における芸術や宗教の役割とは何なのか。日本の現代美術に何ができるのか…… そのような大きく、困難な問いに、カオス*ラウンジなりの実践をもって、ひとつの回答を示す展覧会になることでしょう。

 

開催概要】

展覧会名:カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇「百五〇年の孤独」
主催:合同会社カオスラ
会場:zitti〒971-8172 福島県いわき市泉玉露2丁目2-2)ほか、泉駅周辺の複数会場

開催期間:
2017年12月28日(木)~2018年1月28日(日) ※1月からは金土日祝のみ
12月28日、29日、30日、31日
1月5日、6日、7日、8日、12日、13日、14日、19日、20日、21日、26日、27日、28日
(合計17日間)


 

会場時間:10:00~18:00

※本展は、JR常磐線・泉駅からすべての会場を徒歩でご覧いただけますが、会場間の移動に徒歩10分以上要する場合もあります。もしお車でお越しの際は、専用の駐車場はありませんので、ご注意下さい。

※全体の鑑賞時間の目安は3時間程度です。
期間中の日の入り時間は16:30ごろです。屋外展示や移動が多いので、暗くなると鑑賞しにくい作品もあります。できるだけ早い時間にお越し下さい。

観覧料:1,000円(高校生以下は無料)
交通案内:JR常磐線・泉駅北口より徒歩2分
公式サイト:http://chaosxlounge.com/zz-izumi/jigoku.html
お問い合わせ:info@chaosxlounge.com

 

【イベント】

トーク①
2017年12月28日(木) 18:00~20:00
ゲスト:高山明(演出家、Port B主宰)
入場料:1,000円

年越しイベント「百五〇年ぶりに〈除夜の鐘〉をつく」
2017年12月31日(日) 22:30頃からスタート ※参加無料

トーク②「死生観光と市街劇――現代美術は〈死生〉を考えることができるか」
2018年1月6日(土) 18:00~20:00
ゲスト:岸井大輔(劇作家)、陸奥賢(観光家)
入場料:1,000円

トーク③「日本仏教の根底にあるもの:「毛坊主」再考」
2018年1月14日(日) 18:00~20:00
ゲスト:亀山隆彦(仏教学、龍谷大学非常勤講師
入場料:1,000円

 

 

キュレーション、演出:
黒瀬陽平(美術家、美術批評家、カオス*ラウンジ代表)

参加アーティスト:
荒木佑介、市川ヂュン、井戸博章、今井新、梅沢和木、梅田裕、ク渦群、酒井貴史、鈴木薫、名もなき実昌、パルコキノシタ、百頭たけし、藤城嘘、藤元明、三毛あんり、柳本悠花、弓塲勇作、chloma、Houxo Que、KOURYOU、SIDE CORE

リサーチチーム:
黒瀬陽平、江尻浩二郎(郷土史研究、東日本国際大学非常勤講師)、亀山隆彦(仏教学、龍谷大学非常勤講師)、荒木佑介(アーティスト)