柳本悠花 個展『さまよう むこうがわ』
2017年5月16日 – 9:00 AM

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この度カオス*ラウンジは、柳本悠花の個展「さまよう むこうがわ」を開催します。

柳本悠花(やなぎもとゆうか 1990年生れ)は、主にフェルトを用いて「風景」を立体化(ぬいぐるみ化)する、というスタイルを続けてきた。カオス*ラウンジでは、『市街劇「怒りの日」』(2015年)や『市街劇「小名浜竜宮」』(2017年)などで、被災地の失われゆく風景をモチーフにした作品を発表してきた。

柳本の作品をはじめて見たのは、2014年の武蔵野美術大学の卒業制作展のときである。タクシーの社名表示灯をフェルトで作ったものを、ダンボールの上に置いて並べる、という奇妙な作品で、油絵学科の卒展会場のなかで明らかな異彩を放っていた。
しかし、ぼくが足を止めたのは、その社名表示灯がすべて、高知県のローカルタクシー会社のものだったからだ。その事実は、柳本の作品を奇妙なソフト・スカルプチュア以上の何か、として成立させていた。思えば、その時からすでに、柳本の作品は「土地」との関係無しにはありえないものだった。

本人もはっきりと自覚しているように、柳本の作品は「お土産」に似ている。つまり、ある土地を訪れた人が、自分は確かにこの土地に訪れたのだ、ということの証拠として買い求める何かに似ている。そして実際、柳本本人も、お土産の類に目がない。一緒にどこかへリサーチにいくと、いつの間にかお土産や、その土地にあったもの(だいたいは「石」だ)をたくさん抱えている。

おそらく柳本の作品は、人がお土産を買い求め、それを持ち帰ることによってできる土地との関係を、そのまま延長することによって作られている。ふつう、その関係はとてもささやかなものだろう。旅の思い出とか、記念とか、そういった言葉で済まされてしまう何かだ。
柳本はむしろ、そのささやかな土地との関係を、どこまでも肥大させようとする。そして、その肥大した土地との関係の中に、住みつこうとするのだ。

被災地でのプロジェクトを経て、柳本のそうした衝動は、よりいっそう強くなった。なぜなら、被災地で柳本が作品化した土地や風景はすべて、すでに失われたり、目の前でどんどん変わってしまったりしていたからだ。
土地が失われる。そして、人々の記憶からも消える。もしかしたら自分の記憶からも、徐々に消えてしまうかもしれない。だとすれば、柳本のよりどころは、手元に残った「お土産」しかないではないか。だから柳本は、持ち帰った「お土産」を頼りに、もう一度「土地」を作りなおすのだ。

情景の墓場       柳本悠花

遠くの話をしているようだ。

私が土地の話をする時、その場所は私の記憶の中にしか存在しない。
そこが現在も変わらずあり続けるという証明は誰にもできない。そこに立っていた7歳の私を、14歳の私を、22歳の私を誰も知らない。

どうせいつか忘れる土地。そこに一緒にいた人さえもきっと忘れる。
忘れろという。思い出したくないという。
ひとつずつ記憶を消したら、いつの間にか足場が消えた。

証明するものがないなら、いっそそこへ行ってしまおうか。
きっといつかその土地も情景も人も感情も全てが嘘になるから。

遠いむこうで起こったことだと言えば安心する?

合わせ鏡をする。特別な時間にそこを覗くと未来が見えるらしい。
その時、むこうがわのその土地の未来を見ることはできるのか。

どうせ記憶から消し去る世界なら、持ち去ってしまおう。

【展覧会概要】
展覧会名:柳本悠花 個展「さまよう むこうがわ」
会期:2017年5月19日(金) – 6月4日(日) ※月曜休廊
開廊時間:15:00-20:00
会場:ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ
〒141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
※こちらの会場は「ゲンロンカフェ」ではございませんのでお気をつけください。

【イベント】
◎オープニングレセプション

5月19日(金)18:00-20:00 ※ワンドリンク制

【お問い合わせ】
合同会社カオスラ 141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
tel:03-5422-7085 mail: info@chaosxlounge.com