太田剛気 個展『四峰隆満内閣展』
2017年3月23日 – 10:00 PM

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この度カオス*ラウンジは、太田剛気の個展『四峰隆満内閣展』を開催します。

太田剛気(1991年東京生れ)は現在、東京藝術大学絵画科油画専攻の2年生である。浪人を経ているとはいえ、まさに現役藝大生の新人であり、今回が初の個展となる。

太田の作品を見たのは、2017年1月の藝大の学内進級展だった。つい最近のことである。
この進級展はめずらしく前評判が良く、期待して見に行ったのだが、残念ながら興味を引くような作品はほとんど見当たらず、絵画棟内を足早に巡っていたところ、太田の作品の前で足が止まった。

アニメ絵風のフラットな塗りで描かれた中年男性の、小さな肖像画が数点並んでいた。それ自体では、特別にインパクトのある作品というわけではなかった。しかし何かひっかかる。近づいてみると、片隅にファイルが置いてある。開くと、「歴代連合党総裁一覧」「歴代内閣閣僚一覧」と題された名簿が膨大にファイリングされていた。

それは、作者によって想像された架空の国の歴史(しかもその国の歴代総裁と閣僚のリスト!)であり、数点の肖像画は、その歴史のなかで重要とされている政治家たち(もちろん架空の)であった。展示を見終わった後、知り合いのツテを頼ってなんとか太田とコンタクトを取り、ここでの個展を決めた。

太田はこれまで、作品という以前に、ほとんど趣味のようなものとして、架空の国家の政治史を、文字によって書き続けてきた。そして時折、その歴史上の架空の重要人物を「キャラクター」として描いてきた。
太田が妄想する国家の歴史は、近現代の日本史をモデルにしている。特に、国民国家の成立以後の政治史は、大きな戦争を経験することなく、二大政党が延々と政権交代しているだけの「政党史」であり、まさに戦後の日本を歪に引き伸ばしたような、不気味な疑似ユートピアである。

外部を消し去った「偽史」の妄想に耽ること自体が「脱政治的」である、と指摘することはたやすい。そして、太田が親しみ、その表現文法を用いているキャラクター文化こそ、戦後日本という疑似ユートピアで育まれたのである。
その意味で、太田の作品は良くも悪くも、政治や社会から切り離された戦後日本の想像力を体現するものだと言えるかもしれない。

しかし一方で、太田によって描かれた架空の政治家たちの肖像は、美少女や美少年を描くことによって磨かれてきたキャラクター表現の蓄積を、ほとんど破棄しているかのように、徹底して抑制的なタッチで描かれている。キャラクター表現としては致命的な「貧しさ」は、太田自身によって選び取られたものであり、それは結果的に、キャラクター表現の臨界点を炙り出しているようにも見える。

今回の初個展によって、太田の書き続けてきた「偽史」と「キャラクター」の限界、そして可能性がはじめて開陳されることになるだろう。期待の新人のデビューを、ぜひご覧いただきたい。
(黒瀬陽平)

資料としての作品

今回展示する作品は私が作った架空の国家・皇州の歴史における内閣の一つ、四峰隆満内閣に関するテキスト及び絵画による資料である。

「資料」としたのは、これらの作品がそれぞれ単独の完成品としてあるのではなく、それぞれが「皇州の歴史」という膨大な情報量を有する創作物の一構成要素に過ぎないためである。
ここに展示したテキストや絵画はそれ単体ではなんの意味も持たず、「皇州の歴史を構成する一要素」となることによってのみ意味が生じ、それ故にこの段階ではこれらの作品はただの情報でしかない。
学生時代に使っていた歴史の教科書を読むとそこに感情的な表現は一切なく、ただ淡々と歴史的な事実を述べている文章に出会うが、今の私の作品はこうしたある種の「平坦さ」を表現することを試みている。すなわち、物語性やある種の劇的さ、こうしたものを極力排除しようとしているのである。物語性などの味付けは、その後で良いと考えている。
こうして制作した資料は、また次の作品の資料となる。そしてその資料はまたその次の作品の資料となっていく。そうして積み重ねられた数多の資料が複合体となって「架空の歴史」という一つの壮大な作品を構成することになるのだが、今回の展示はまだそのスタート地点に過ぎない。

元々、中学生時代に趣味として始めたこの架空の歴史づくりが10年以上の時を経て作品として世に発表することになるとは夢にも思っていなかった。今思うと、誰に見せるためでもなく始めたこの架空の歴史づくりという行為の積み重ねがある種の歴史を形成していると思えなくもない。
今回の展示ではそうした歴史も一端でも感じていただければ幸いである。
(太田剛気)

【展覧会概要】
展覧会名:太田剛気 個展『四峰隆満内閣展』
会期:2017年3月31日(金) – 4月9日(日) ※月曜休廊
開廊時間:15:00-20:00
会場:ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ
〒141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
※こちらの会場は「ゲンロンカフェ」ではございませんのでお気をつけください。

【イベント】
◎オープニングレセプション
3月31日(金)
18:00-20:00 ※ワンドリンク制

【お問い合わせ】
合同会社カオスラ 141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
tel:03-5422-7085
mail: info@chaosxlounge.com