木村翔馬、名もなき実昌「ヴァーチャル・リアリティの居心地」
2019年3月31日 – 8:09 PM

 

カオス*ラウンジは、木村翔馬と名もなき実昌の2人展『ヴァーチャル・リアリティの居心地』を開催する。

1996年生まれの木村翔馬は、学生を対象としたアートアワード「CAF賞2017」で最優秀賞を受賞した注目の新人アーティストである。
木村の試みをあえて簡単に言えば、「VRを用いた絵画制作」だろう。とはいえ、VRのなかで立体感のある絵画を描くとか、VR空間で鑑賞できる絵画を作るとか、そのような類の「メディア・アート」ではない。
木村の作品の特徴は、3DCGで制作されたVR上にしか存在しない絵画と、VR上の絵画をアナログに「変換」したペインティングやドローイングをセットにして提示している点だ。鑑賞者はヘッドマウントディスプレイを装着し、VR空間のなかでVR絵画を鑑賞する。と同時に、現実の展示空間には、VR絵画が二次元化された絵画が置かれている。2つの絵画は互いに参照関係し合うようにして存在している。

おそらく木村は、VRにおける「支持体」や「平面性」の問題を考えている。
本来絵画は、人間の身体性やメディウムの物質性を、キャンバスという支持体の表面、つまり平面上に構成することによって描かれる。しかし、VR空間にはそのような意味での支持体も、平面も存在しない。木村のVR絵画は、平面として支持体に定着することなく、絵を描く作者の身体性や挙動がそのまま「オブジェクト」と「ポリゴン」に変換されてしまう。VR空間において、支持体とは「プレイエリア」そのものであり、作者(鑑賞者)は拡張された支持体のなかに取り込まれてしまうのである。そこでは、絵画というフレームは徹底的に無化されている。

木村がVR絵画とアナログ絵画を往復しているのは、このようなVR空間に、支持体や平面性を再導入しようとしているからだ。木村のアナログ絵画は、VR上で支持体を離れ、非平面的に展開してしまう絵画を、もう一度絵画のフレームに定着させようとしたものだ(木村はそれを「VRの感覚を絵画化する」と言う)。木村は、VR上では「環境設定」によってどこまでも拡張でき、重力の有無さえ操ってしまえる「プレイエリア」を限定するため、現実のキャンバスや空間をスキャンして取り込むことで、VR空間の「再・支持体化」を試みているのだ。そして、このような試みをアナログ絵画の側から見れば、VRの感覚を持ち込まれることによる絵画の解体、となるだろう。

一方、木村とほぼ同世代の名もなき実昌(1994年生まれ)は、過剰に「平面」的な作品を量産する。実昌の絵画平面は、ネットワークに接続されたタブレットの表面(タッチパネル)のように、次から次へと殺到してくるイメージを無限に受け入れ、平面として自在に「描かれて」いる。
その平面としての質は、上の世代のデジタル絵画作家、梅沢和木のような「デスクトップ」的なモニター平面ではなく、タッチパネルを直接指で操り、イメージを描いてしまえるようなものである。実昌は、直接指や手を使って描く技法を多用しているが、それはまさにタッチパネルを触る指のようであり、そうやって描かれた線の質は、VR上で描かれた木村の線とそっくりなのだ。

VRによる平面性の消失と、タブレットによる平面の身体化。木村と実昌の2人の実践は、確かに真逆を向いている。しかしどちらも、現代のテクノロジーによって変容し、場合によっては無意味化されてしまうかもしれない平面性の、もっとも危うい突端に位置しているのである。

 

 

【展覧会概要】
展覧会名:ヴァーチャル・リアリティの居心地
参加作家:木村翔馬、名もなき実昌
会期:201946() – 421()  月曜休廊
開廊時間:15:00-20:00
会場:ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ
141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
こちらの会場は「ゲンロンカフェ」ではございませんのでお気をつけください。