山縣良和『人山人』
2018年5月14日 – 3:08 PM

日本の現代美術とファッションが、ともに考えることを止めてしまったのはいつからだろうか。広告代理店が考えそうな「コラボレーション」でもなく、ネット上でバズらせるための話題作りでもなく、大きく、深く、厄介なテーマを共有し、のたうちまわりながら、ともに表現することを止めたのは、いつからだろうか。

現在、山縣良和というデザイナーが不思議な存在感を放っているのは、彼の抱えているテーマが狭義の「ファッション」を大きく逸脱しているからであり、そのことを彼の「作品」たちが存分に語っているからである。

2017年11月17日、山縣良和は東京都庭園美術館の前庭で「After Wars」と題するショーを開催した。
周知のように、「戦後」というテーマは二〇世紀以降の日本の文化史、芸術史のなかで馴染みのものである。しかし、「After World War Ⅱ」でもなく、「Post War」でもなく、「After Wars(戦争の後)」と名付けられていることからもわかるように、山縣は馴染みのテーマに、ただ寄り添うようなことはしなかった。

焼け跡、廃墟、千羽鶴、怪獣、キャラクター…… ショーは、日本の戦後文化史のなかで、繰り返し描かれてきたモチーフに満ちていた。しかし同時に、それらにはひとつひとつ、何かしらの「違和感」が仕組まれていた。
そもそも、自身のブランドのショーで、日本の戦後史を「上演する」という振る舞い自体、彼の特異性を物語っているが、山縣はそれらをすべて引き受けた上で、大胆かつ巧妙な「書き換え」を行っていたように思える。

なかでもとりわけ、大きな違和感と、謎めいた存在感を放っていたのは「山」というモチーフである。巨大な山に足がはえ、ランウェイをヨロヨロと歩く。もちろん、ショーで見せられる服が、通常着られる服を逸脱するのは当たり前のことであるし、いまさら「着られない服」を見せられて驚くような観客などいない。

しかし、「巨大な山」は間違いなく、過激な演出や「着られない服」といった狙いとは無縁のものである。それは、山縣が考える「After Wars(戦争の後)」というテーマを担うモチーフ、コンセプトを、現段階で可能な限り形象化したものである。

山縣によれば、山のモチーフは「再生」を意味していると言う。そう聞けば、直ちに柳田國男の「祖霊信仰」や、修験道に代表されるような山岳信仰などが連想されるだろう。もちろん、そのような連想もまた、「日本文化論」におけるパターンには違いない。
しかし、にもかかわらず山縣の試みが興味深いのは、「戦後」のイメージを用い、その文化史的負荷を背負いながらも、そこから逸脱し、「戦後」の外側に想像力を繋げようとしている点である。その意味で「After Wars」は、日本の戦後文化史を引き受け、そして乗り越えようとする、山縣の新しいマニフェストのようであった。

今回、カオス*ラウンジのアトリエで、山縣良和による「人山人(ひとやまひと)」と題した展覧会を開催する。タイトルからして、「After Wars」のショーから直接連続する展示になることは間違いない。
それに付け加えることがあるとすれば、次のような理由がある。今回、私が山縣に声をかけたのは、もしかしたら山縣が構想していることは、カオス*ラウンジが近年取り組んでいる「日本美術史の再構築」というテーマと共通するのではないか、と思ったからである。
すでに書いたように、日本美術史においても「戦後」というテーマは、呪いのように重く、つき纏い続けている。カオス*ラウンジは、「戦後」を忘却することなく、自分なりに引き受けながら、その外側に出ることを考えてきた。山縣の「巨大な山」を見て、もしかしたら、お互いの活動に補助線を引き合うことができるかもしれない、と思ったのである。

展覧会は、山縣が自身で構成した展示を中心として、そこにカオス*ラウンジのインスタレーションを組み込む、というかたちで作られている。この展覧会が、ファッションと現代美術がともに考え、ともに表現する、その新しいサンプルになることを祈っている。

黒瀬陽平(カオス*ラウンジ)

About writtenafterwards

writtenafterwards は、2007 年に設立され、21_21 design sight にて初の展示を行う。
2008 年に東京コレクション初参加。
2009 年オランダアーネムモードビエンナーレにてオープニングファッションショーを行なう。
コレクション、展示会、ショーなどをファッション表現を通じて、社会的、文化的、教育的、環境的観点を持った新たな人と人との関係性を創造して、新しいファッションの役割を提案している。

 

About Yoshikazu Yamagata 

2005年 セントラルセントマーチンズ美術学校を首席卒業。
在学中にジョン・ガリアーノの デザインアシスタントを務める。
インターナショナルコンペティション ITS#three Italy にて3部門受賞。
2007年 リトゥンアフターワーズ設立。2008 年 9 月より東京コレクション参加。
2009年 オランダアーネムモードビエンナーレにてオープニングファッションショーを行う。
2011年 オーストラリア、オーストリアにてファッションショーを行う。
2012年 日本ファッションエディターズクラブ新人賞受賞。
2014年 ベーシックラインwritten byを発表。
2014年 毎日ファッション大賞・特別賞を受賞。
2014年 東京ファッションアワード(TFA)受賞。
2015年 LVMH Prizeの選抜候補26名に、日本人初として選抜される。
2016年 パリColetteのウィンドウディスプレイを担当。
またファッション表現の実験、学びの場として、2008年より「ここのがっこう」を主宰。

http://www.writtenafterwards.com/

【展覧会概要】
展覧会名:山縣良和「人・山・人」
会期:2018年5月19日(土) – 6月3日(日) ※月曜休廊
開廊時間:15:00-20:00
会場:ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ
〒141-0022 東京都品川区東五反田3-17-4 糟谷ビル2F
※こちらの会場は「ゲンロンカフェ」ではございませんのでお気をつけください。

【関連イベント】
トークショー:山縣良和×黒瀬陽平
日時:2018年5月27日(日)  19:00-21:00
定員:20名
参加費:1,000円
会場:ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ

(5/21更新)
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