GUIDE:2:鬼の記念館

5 山本卓卓《鬼の唄》

6-1 柳本悠花《桃源郷(豊玉依姫大明神の鳥居)》

6-2 柳本悠花《桃源郷(女木島)》

6-3 柳本悠花《桃源郷(紫雲丸)》

6-4 柳本悠花《桃源郷(荒多大明神の鳥居とワニ)》

6-5 柳本悠花《桃源郷(龍宮》

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第2会場「鬼の記念館」

 

第2会場は、女木の集落のなかに建つ古民家です。明治のころから大堂さんという方が代々住んでいたこの家は、50年以上放置された状態でした。カオス*ラウンジは展示のために、廃墟となっていたこの家を掃除し、たくさんの遺留品を発見しました。それらの遺留品を精査してわかったことは、大堂家は大阪で海運業を営み財を成していたこと。そして、1920〜30年代の遺留品が多いことでした。その時代はまさに、橋本仙太郎が桃太郎論を発表した時代であり、日本が移民政策に力を入れていた時代です。実は女木島は、当時の香川県で最も多く移民が出たところであり、ブラジルを中心に、北南米へ仕事を求めて多くの人が海を渡ったそうです。

 

「鬼=他者」にとって、移動は重要なテーマです。瀬戸内の鬼たちは、大陸や半島から移動してきた渡来人や海賊であり、「家船」と呼ばれる屋根のついた船の上で生活した漂海民たちでした。そして、瀬戸内から他国へ出て行った移民たちもまた、異国の地で「鬼=他者」として生きていったのです。ぼくたちは、移動にまつわる記憶や品々をたくさん溜め込んだこの家を「鬼の記念館」として構成することにしました。

 

冨樫達彦は、女木島に伝わる「伝兵衛石」をモチーフにしたプロジェクトを展開します。「伝兵衛石」とは、およそ300年前に女木島沖に沈んだ石のことで、伝兵衛という人が大阪城築城のために運んでいたところ船が転覆して沈んでしまい、伝兵衛さんも亡くなってしまったそうです。伝兵衛石は全部で3つあり、うち2つは引き上げられています。ひとつは山のふもとの住吉神社の鳥居に使われ、もうひとつは小学校裏の忠魂碑に使われました。そして、残りのひとつがまだ、女木の海に沈んでいるのです。冨樫は、引き上げれられた「伝兵衛石」でつくられた忠魂碑を、もう一度海に沈めるというプロポーザルをインスタレーションのかたちで展示します。今となっては誰も確かなことは知らない「伝兵衛石」を再び海に戻すことによって、伝説はあらたに語られ直すでしょう。

 

柳本悠花は、豊玉依姫大明神や荒多神社、龍宮など、女木島の伝説と結びついたモノたち、あるいは事故で瀬戸内海に沈んだ紫雲丸(1955年)などを、フェルトのオブジェに仕立て上げます。それらは、語られた伝説や記憶を造形に反映させているため、現実とはすこしちがった形になっています。鏡面から浮かび上がってくるように配置されたオブジェたちは、まるで伝説や過去の世界から召喚されたかのようです。

 

藤城嘘は、女木島と瀬戸内海を「鬼界」の鳥瞰図として描きます。「鬼界」とは、都市と都市や文明と文明の境界領域を名づけて呼んだ言葉です。女木島を、はっきりした帰属先を持たない鬼たちが住む場所としての「鬼界」としてとらえなおし、そこにうごめくさまざまな存在を描き起こしてゆきます。

 

山本卓卓は、「父殺し」としての鬼の物語を創作し、映像作品として展示します。鬼の兄弟が共謀して父を殺し、弟は人間に、兄は鬼のまま生きる。細部に女木島の伝説を思わせるモチーフを散りばめたこの「昔話」は、それぞれの登場人物に何を代入するか、そして誰の視点で見るかによって、様々な寓話として解釈されることでしょう。

 

今井新は、東南アジアで多発するテロ活動によって瀬戸内海へ大量に難民がやってくる、という設定の漫画作品とインスタレーション作品を展示します。サウジアラビアがオイルマネーを元手に行っている「テロリスト更生施設」をモチーフに、そのような更生施設が女木島に作られる、それをとりまく人間たちの物語を描きます。漫画作品は連載となり、会期ごとに続編が追加されてゆきます(全三回)。

 

荒木佑介は、橋本仙太郎の桃太郎論を徹底的に分析し、荒木なりに解釈しなおした「真説・桃太郎」を提示します。荒木によれば、桃太郎の伝説は「建国神話」を民話化したものであり、登場人物たちは当時日本に大量にやってきた、さまざまな「移民」の集団を象徴しています。それらを読み解くことで、桃太郎伝説に織り込まれていた重層的な歴史が見えてきます。

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7 藤城嘘《鬼界絵図》

8 冨樫達彦

《Proposal for the reversion of a memorial : memory expanded》

9 荒木佑介《真説・桃太郎》

10 今井新《女木島難民芸術祭・取材資料室》

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